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アーティストがブレイクするとき 作詞家の見解

Makoto ATOZI

 直接依頼をいただいた場合、歌詞の提出時に企画書を添えることがあります。好まれる場合と好まれない場合を考えながらではありますが、企画書には楽曲が大きく羽ばたく際の原因について、僕なりの見解が記されています。

 今日はそのことを少し書いてみます。

 時代は大きく変わり、今では車載オーディオ以外ではCDを再生する機器さえも持っていない人も増えました。スマートフォン、PC、カーオーディオがあれば、音楽生活は十分コト足ります。

 サブスクリプション一定額での音楽視聴と配信リリースが一般的になった昨今では、日本中を巻き込むようなメガヒットは生まれにくい時代になりました。

 アーティストが売れ始めるときは、ブレイクしたという言葉で称されます。○○(アーティスト名)のブレイクのきっかけになった曲という表現の仕方もあります。

 世の中を席巻していくアーティストの多くはデビュー曲からいきなり売れ出したかのような印象を放っていますが、実際はデビューして何曲かは不発、時期を見て渾身の一曲がブレイクということが多い。

 では彼らはなぜブレイクしたのか。それには要因がある。
一つは新曲の印象が今までの彼らの印象を遥かに超えたから。
もう一つの要因は今までとは異なる完全な音楽的方向転換を行ったから。

 アーティストサイドのヒット曲の歴史を見てみると、それまでは可愛らしい歌、たとえば純粋なラブソングを歌っていたアーティストが突然、哲学を歌う。ラディカルになる。または、退廃的な世界観を歌う。半径視野が見える世界の歌から、スケールを広大させる。繊細な毒を含む。

 退廃的な世界観にも二つあり、一つは映画スワロウティルのような瓦礫が並ぶ物語的退廃感。
 もう一つの退廃的な世界観は毒を交えた享楽的世界観。
 その両者で描かれるのは一段と深みを増した愛。

 いずれにせよ、今までは「君が大好き」と歌っていたアーティストが突然荒野を行く戦士のようなイメージビジュアルであったり、パーカーで顔を隠す、砂漠をゆく旅人のイメージ、可愛らしいカジュアルな服装からの脱皮、または宇宙的スタイルで哲学と意味のあるメッセージを放つ。モノトーンか、カラフルか。

 Mr Children、スピッツ、AKB48、などのブレイクしたときの姿がこれらに重なる。次から次へと新曲でイメージを刷新する。
 ブレイクの定義はただ単純に売れるということではなくて、売れていたアーティスト、または少しずつ積み上げ活動してきたアーティストの中の何かが沸点を超えるときの姿を指すのでしょう。

 ずいぶん前の歌だけれどAKB48の「Beginner」はまさにブレイクの典型的な形だと感じました。
 それまでのキャピキャピとした少女的アイドルたちというイメージを一新してアーティストとして演じていく覚悟に見えた。

 ここ最近で言えばYOASOBIの「アイドル」はかなり衝撃的、YouTube
では、もう直ぐ2億視聴回数だそうだけれど、この歌の反響のすごさは、YOASOBI自身が今までのYOASIBIというパブリックイメージの殻を完全に打ち破ることに成功したからだと思う。歌の各ブロックに現代的共感を呼ぶ、こう来たかというような言葉が散りばめられていて、歌声の良さが完全に生かされている。音楽的にも圧倒的にCoolで毒もある。

 この歌が人々の心に安らぎを与えるかどうかはわからないけれど、エンターティメントとしては圧倒的に素晴らしい。聴いた瞬間に心を持っていかれるように感じたリスナーも多いのだと思う。

 人々は自分の心を救ってくれるような歌に出会えたとき、カッコいいと思える歌に出会えたとき、まさに推しとして誰にも言わなくても心の中で、この歌が売れてくれたらいいなと願う。アーティストの新境地を見たいと思う。

 他人であるはずのアーティストに自分に似たなにかを見て繁栄を願う。自分の半身のようにアーティストの未来を思い描く。推しの曲が売れたとき、自分の審美眼の正しさが証明されたように感じてうれしくなる。そうしてアーティストはブレイクする。売れたアーティストの姿に純粋性を見れば尚更にファンになる。

 では、歌のカッコよさとはどこに宿るのかといえば、音楽的・洋楽的な心地よさと、斬新な衝撃(音楽を未来へ連れていくのだという覚悟)、アーティスト側の無為・あまりにも大きな期待ゆえの無執着にある。

 ただ行為に専念して、エゴを手放したときのアーティストの神がかったような覚悟。それが見えるとき、音楽に何かが宿る。

 カッコいい、Coolな歌は、それを歌うアーティストの繁栄を願うファンのワクワクによってブレイクを果たす。
 ブレイクとサプライズはよく似ている。どちらも感動する。
 
 何事も、無為に向き合い執着を手放し、自分の中のこれまでの音楽への常識も手放し、後戻りはできないという覚悟から、まな板の上の鯉となったようなアーティストに、なんらかの音楽の神が光を降ろしているようにも見える。

 でもきっと、これは音楽に限られたことではなくて、あらゆる世界で起き得ることで、次元上昇という言葉で表されることもあるけれど、固執した考えで動くのではなくて、あらがうことなく運命を歩むとき、突然に開く幸運のトビラはある。

 ブレイクという言葉は、一皮剥けたと訳すこともできる。まるで蛇が古い皮を脱ぎ捨てて脱皮するかのように。

 こうして書いていて、自分のことを思うと、今の自分は活動範囲も小さくして、なんて小さな世界にいるのかと思ってしまうけれど、きっと、僕も、あなたも、あきらめたりすることなく、余計な皮ならいつでも脱いで見せようと、真我を見失わずに生きたいのだと決めるなら、人生としてのブレイク(闇を打破するという意味の)はきっと起き得る。

 感謝して、一点集中して使命に向き合い行為するなら、それぞれにそれぞれの世界を動かすような何かを仕掛ける権利は、あらゆる生命に与えられているのだと思う。

 そして、僕たちが普通に生きているこの世界では、本当の自分、外的な刺激によって変わり続けてきてしまった自分から心機一転、真我の存在に気づき、幸せな泣き方を思い出し、世界の不思議にふれたようなとき、それが闇と無知からの解放というブレイクなのかもしれない。

 これからもワクワクするようなカッコいい音楽が聴けたなら嬉しい。そんなアーティストの出現が待ち遠しい。

 あたりまえのようなことを仰々しく書きましたがお許しを。

 自分自身も一皮剥けて、肌ツヤ良く青空を見上げられるように頑張らなければ。

 Makoto ATOZI

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本コラムは、講師個人の立場で掲載されたものです。
コラムに記載されている意見は、講師個人のものであり、カフェトークを代表する見解ではありません。

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