先日、大学のオープンキャンパスで高校生と話した時のこと。その生徒さんは、大学に入ったら留学生と交流したいと言ってうちの大学の留学生について質問してくれたのですが、その時の生徒さんの言葉にはっとさせられました。
「じゃあ、がんばって留学生に英語で話しかけますね。」
「え?彼らは日本語が話せますよ。」
私の勤務する大学は、短期留学や交換留学の留学生は少なく、ほとんどの留学生が学部の正規生として入学し、4年間日本人の学生と同様に、日本語で授業を受け、日本語で卒業論文を書いて卒業します。わざわざ英語で話しかけなくても、日本語で十分にコミュニケーションができる人たちです。(むしろ英語が苦手な人もいっぱいいます)しかし、その生徒さんのように「留学生と言えば英語」というイメージを持たれている方は多いでしょう。
また、留学生だけでなく一般に「外国人には英語で」という思い込みが日本社会では強いようです。少し古い調査ですが、岩田一成(2010)という調査で広島市が配布している外国人向けのお知らせや資料を集めて、どんな言語が使われているか分類してみると、英語のみか英語と日本語が併記されているものが圧倒的に多かった(77%)と報告されています。しかし、国立国語研究所(2008)が全国の約1600人の日本在住外国人に調査した結果によると、実は英語ができる人よりも日本語ができる人の方が多かったのです。「日常生活で困らない言語」として「日本語」を選んだ人の割合が62.6パーセント、「英語」が44.4パーセントでした。つまり、「外国人には英語で」という日本人の思い込みは間違っているということです。
日本在住の外国人に話しかける際には英語ではなくて「やさしい日本語」を使うと良いでしょう。「やさしい日本語」とは、文法や語彙のレベルをやさしくしたり、文章の長さを短くしたりするなどの配慮をして、日本語を勉強中の外国人にもわかりやすくした日本語のことです。1995年の阪神・淡路大震災の際、地震発生時の緊急速報や避難指示を理解できずに多くの外国人が被災したことから、外国人に迅速に正しい情報を伝えるための手段として開発されました。
たとえば、地震発生時に注意喚起するための地震速報で次のように言ったとします。
「地震です!頭部を保護してください。」
これをやさしい日本語で言い換えるとこうなります。
「地震です!頭の上に気をつけてください。」
松田・前田・佐藤(2000)という論文で、実際に日本語学校の外国人留学生さんを対象にした実験で、「頭部を保護してください」のような日本語では30%ぐらいの外国人しか理解できなかったのに対し、やさしい日本語で言い換えたら、90%の外国人が理解できたという結果が報告されています。
現在では、災害時だけでなく、行政からの発信や医療現場、教育現場で「やさしい日本語」の使用が拡大しています。
ぜひあなたの身近にいる外国人と交流する際には英語ではなくて「やさしい日本語」で話しかけてみてください。その方がずっと心の交流が進むのではないでしょうか。
【参考文献】
岩田一成(2010)「言語サービスにおける英語志向―「生活のための日本語:全国調査」
結果と広島の事例から―」『社会言語科学』第13巻第1号、pp.81-94.
松田陽子・前田理佳子・佐藤和之(2000)「災害時の外国人に対する情報提供のための
日本語表現とその有効性に関する試論」『日本語科学』第7巻、pp.145-159.
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