あれは、カナダに来て2か月経った頃
23年前の5月の事。
その話は ここから始まった。
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「こんなはずじゃなかった…」
わたしは、何処からも物音がしない
一軒家のリビングで
そう心の中で呟いた。
何年も何年も
いや、小さな頃から夢見てきた 海外雄飛。
やっと30歳にして、ギリギリのワーキングホリデービザで
わたし”とりあは”、カナダの日系企業に就職をした。
でも、入社早々に出張で行かされたのは
ケベック州の最果ての地。
人口は80名にも満たない
道路は一本道が果てしなく続くだけ。
ホテルなんて気のきいたものはなく、一軒家を借りた。
お店と名のつくものは、家から100メートル先にある
今にも傾きそうな、掘立小屋。営業しているのかさえ、わからない。
タイムスリップしたとしか思えないほど
何もかもが、古びていて
何もない町。
何より、一番の問題は
フランス語しか通じない。
誰も、英語を話せないのだ。
それなのに、わたしはフランス語を何ひとつ話せない。
これで、どうやって仕事をしろと言うのか!?
そう思いながらも、身振り手振り
辞書を片手に、過ごす毎日。
借りた家に帰っても、フランス語のチャンネルしか映らないテレビ。
ストレスばかりが募っていく。
そんなある日、いきなり”同居人”が現れた。
同僚でもなく、何の関係もない”男”。
わたしが”ここ”で仕事に入っている工場の関係者だとかで
研修でここに来たと言う。
彼、アランはこれまた
フランス系カナダ人で英語が出来ない。
見知らぬ男と数週間、同居するなんて。
しかも、言葉が通じない。
「あー、これじゃ 全く話にならない。
居ても、更にストレスになりそうだわ」
わたしは内心、面倒な者が舞い込んできた事に、ひどくガッカリした。
同居人アランは、とにかく雰囲気が暗かった。
ひとつの空間に居るだけで
ここまで空気を暗くする人がいるのか…と驚くほど
暗いものをまとっていた。
何にしても、言葉が通じないんだから
無視・放置に限る。
わたしは「何も無いもの」と思い込むようにした。
この何もない地に滞在している事、仕事にも不満が募るばかり。
夢に見た海外、カナダとは程遠い環境。
毎日、胸の内で「こんなはずじゃなかった!」と嘆き続けた。
アランが”ここ”にやってきて、1週間弱が経とうとしていた。
一軒家のリビングで
わたしは、会社の仲の良い同僚に”日本語”で
たまりにたまった、愚痴を喋り続けた。
長い電話が終わり、ふと後ろを振り返るとアランが立っていた。
わたしは、殺気を感じた。
彼はカバンを抱えている。
何をしようとしているのか…
私は恐怖を感じながらも、身動きが出来ずにいた。
彼はカバンから一枚のCDを取り出すと
プレイヤーにセットをした。
わたしは、何も言葉を発せず
未だ、凍り付いていた。
ただ 彼の様子を窺うしかない。
次の瞬間、プレーヤーから流れてきたのは
ユーミンの「あの日に帰りたい」
まさか、こんなケベックの最果ての地で
ユーミンの曲を聞くとは…。
ここに来てから何日も
フランス語も英語も、何ひとつ言葉を発っすることがない。
そして、何もかもに無関心なように思えたアラン。
それが、今は目の前で 薄ら笑いを浮かべながら
何か話そうとしている。
怖い…恐い…ただただ、コワい ...②を読む
小野リサWith 松任谷由実「あの日に帰りたい」
以前、ブログで「国際結婚のカタチ」というシリーズを書いていました。
当時、読者さんからいただいたリアルエピソードを
構成・編集し、描くノンフィクションな「ハクションな話」として綴りました。
人生のなかの人間関係
ハクショ~ンと”くしゃみ”したら飛んでしまいそうな…
飛ばしてしまいたいような…
そんな人間模様や胸の内。
今回は、わたしToriaのリアルなお話。
もちろん、その他登場人物は仮名です。
TORIA (o ̄∇ ̄)/