今週のコラムテーマは「好きな格言やことわざ」ですが、「格言やことわざ」で気になる言葉があります。
それは「他山の石(たざんのいし)」です。
『このできごとは他山の石とせず、今後そのようなことが起こらないように細心の注意を払っていきたい』といったような使われ方をしている文章を時々目にします。
「他山の石とせず…?」
他山の石は、四書五経のひとつ『詩経』の記述に基づく言葉で、『詩経』(小雅しょうが・鶴鳴かくめい 篇)には、「他山之石可二以攻一レ玉」とあり、「他山の石 以て玉を攻むべし」(たざんのいしもってたまをおさむべし)と読みます。
「玉を攻む」というのは「玉を磨く」という意味で、「他の山にある磨いても玉にはならない質の悪い石でも、自分の球を磨くのには役に立つ」といった意味です。
そして、ここから転じて、「他人のつまらない言行、誤りや失敗などにも、そこから学んで自分の知恵や徳を磨く助けとなるところがある」といった意味になりました。
「他山の石」は、自分にとって戒めとなる他人の誤った言行のことなので、「他山の石として」でなくてはなりません。
「他山の石とせず…」という使い方は、「他人事とはせず」や「対岸の火事とせず」といった感じに近い意味で使っている誤用のようです。
また、「他人の誤った言行も自分の行いの参考になる」という本来の意味で使うのではなく、「他人の良い言行は自分の行いの手本となる、教訓にする」という意味で使っている誤用も時々見受けらます。
目上の人の言行についてや手本となる言行の意では使わないのが本来であるにもかかわらずです。
「他山の石とせず、自分事として…」「この素晴らしい成功例を他山の石として・・・」「先輩の失敗を他山の石として・・・」、誤用がはびこる「他山の石」。
いったいこの言葉はどうなっていくのかとすごく不安になってしまいます。
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