次の文は台湾人の日本語学習者がよくしてしまう誤用として論文で報告されているものです。
(1) ×このお祭りは午前3時ごろまで終わります。
(2) ×私は昨夜、宿題がたくさんあったので、午前4時まで寝ました。(午前4時になってから寝たという意味)
(菊池2015、p.29)
中国語の“到(時間)”の影響があり、「時間+まで」の誤用は中国語話者に多いとされていますが、他の言語を母語とする学習者も間違えやすい表現だと思います。
特に、「時間+まで」と「時間+までに」はよく混同されます。日本語学習者にとっては助詞の「に」が付くか付かないかの小さな違いによって使い方が変わるので、非常に難しい表現だと思います。
「時間+まで」は例(3)のように動作や状態がある時点まで継続することを表しますが、「時間+までに」は例(4)のように動作を行うべき期限を表します。つまり、午後5時より前の時間ならいつでもよいのでレポートを出すという1回の動作を行ってくださいという意味を表します。
(3) 午後5時まで授業があります。
(4) 午後5時までにレポートを出してください。
しかし、このように説明してもなかなか適切に使い分けられるようにならないのは、このような時間の表現は動詞の性質と関係が深く、日本語の動詞について適切に理解されていないと使い分けられないからです。
初級レベルの学習者が次のように言うことがあります。この学習者の「寝ます」という意味は少し仮眠を取るという意味なのですが、日本語の「寝る」という動詞はもっと時間幅のある継続的な状態を表すため、「~までに」という表現となじみません。
(5) 「午後、何をしますか」
「×うちに帰って、午後5時までに寝ます。そして、アルバイトをします。」
「~までに」とともに使われる動詞は、「起きる」「うちに帰る」「準備をする」「家を出る」「雨が降り出す」など1回限りの動作や変化を表すものが多く、「~まで」とともに使われる動詞は、「勉強する」「アルバイトをする」「遊ぶ」「寝る」などの時間幅のある動作を表すものが多いです。(テイル形の場合は時間幅のある動詞も「~までに」と一緒に使われる可能性があります)
このように動詞が表す動作が時間幅のあるものか、1回限りのものかという動詞の意味の理解は簡単ではなく、時間がかかります。動詞の意味の理解が深まるには、多くの使用場面に触れる必要があります。初級の学習者が「~まで」と「~までに」の使い分けで間違えてしまうのは、文型の意味が理解できていないのではなく、動詞の理解が十分ではないせいかもしれません。
「~まで」と「~までに」以外にも「~間」と「~間に」や「10分間」と「10分で」のような時間副詞の使い分けも同様に一緒に使われる動詞(述語)の性質が関係しているため簡単ではありません。初級の学習者を教えている先生は、文型の意味を教えても学習者がうまく例文を作れないとがっかりしてしまうのですが、文型の理解の問題でなく一緒に使う語彙の理解に問題があるのかもしれませんので、冷静になる必要があります。
【参考文献】
菊池律之(2015)「台湾人日本語学習者の助詞『まで』にかかわる誤用について : 中国語の‘到’との対応を中心に」『天理大学学報』第66巻2号、pp.29-40.
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