友だちのお母さんにお菓子を勧められましたがおなかがいっぱいで断るとき、
次のような会話が考えられます。
「よかったら、お菓子をどうぞ」
「ありがとうございます。
でも、さっき昼ご飯を食べたばかりで、おなかがいっぱいです」
「そう?じゃあ、持って帰って食べてください」
この「食べたばかりだ」は食べた直後であることを表しています。しかし、ある行為の直後であることを表す表現には他にも「~たところだ」があります。「さっき昼ご飯を食べたところで、おなかがいっぱいです」と言っても問題なさそうです。では、何が違うのでしょうか。
確かに「~たところだ」もある行為の直後であることを表すことができるのですが、本来「~ところだ」は連続する行為の一つの段階を表す表現です。たとえば、会社帰りの旦那さんに奥さんが電話をかけるという場面を考えると、(1)は会社から家に帰るまでの一連の行動の中で駅に着いたという段階を表していて、(2)はこれから家に帰るまでにする一つの段階としてスーパーに寄ることを表し、(3)は家に帰るまでにする一つの段階としてスーパーで買い物をしていて、買い物が終われば次の段階として家に向かうということが意識されています。
(1) 今、駅に着いたところだ。
(2) これからスーパーに寄って帰るところだ。
(3) 今スーパーで買い物しているところだ。
したがって、次の段階が想定できない場合は「~ところだ」は使えません。たとえば、新しい地域に引っ越してきたという状況を考えてみてください。(4)のような会話において、話者は引っ越してきた後に次の段階があることを意識していません。ただ、まだ引っ越してきてから何日も経っていないから、ごみの捨て方のルールを覚える間がなかったということを述べようとしているだけです。
(4)「今日は火曜日だから空きビンを捨ててはいけませんよ」
「すみません。引っ越してきたばかりだから、
ルールを知りませんでした」
「~たところだ」はもともと時間の表現ではないことから、基本的には(5)のように過去の特定の時間を表す表現とは一緒に使えません。「1分前に駅に着いたところだ」といった直前の短い時間の表現なら使える可能性がありますが、これは一連の行為の中の一つの段階として捉えられるからです。
(5)〇このビルは、1か月前に建てられたばかりだ。
×このビルは、1か月前に建てられたところだ。
また、「できたばかりのビル」「釣ったばかりの魚」「発売されたばかりの新商品」のようにある行為の直後であることがある対象の特徴になるような場合、「~たばかりの名詞」を使います。「~たところ」は行為の段階に注目する表現なので、名詞を修飾する用法はありません。
(6)〇釣ったばかりの魚だから、新鮮だ。
×釣ったところの魚だから、新鮮だ。
このように「~たばかりだ」と「~たところだ」は非常に似た意味を表す場合もありますが、本来は異なる意味を表す表現なので使い方が異なります。この場合はどちらを使うべきか迷ったら、本来は何を表すための表現なのかを考えるようにすれば、より適切な表現を選べるようになるでしょう。
※このコラムに使用した画像はcanvaで生成したものです。
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