小説:冴えないさえこ 2/3

Abemomo

2章 谷藤の野望

 

そんなところに救いの手を伸べてきたのが谷藤だった。モネというサイトを運営している男だ。

谷藤 「岡澤さん、もっと記事書かない?」

さえこ「え・・でも、株のネタだけじゃ、そんなに本数書けないかも」

谷藤 「株じゃなくたって、何だっていいんだよ」

さえこ「株しか書けないですよ」

谷藤 「自分で書こうと思うから、そう思うんだよ。世の中にお金ネタのコラムなんていくらでも溢れてるじゃない」

さえこ「パクれってことですか?」

谷藤 「パクる?何言ってんの。そんなことしたらダメだよ。参考にさせていただくんだよ」

さえこ「え・・どう違うんですか?」

谷藤 「パクるっていうのは、そのまんま使わせていただくこと。コピペってやつ。これは法律に触れるよ。やっちゃだめだよ。だけど、参考記事として使わせていただく・・・うーん、自分なりにアレンジするっていうかな?・・っていうのは、みんなやってることじゃない?見てごらんよ。同じようなネタ溢れてるでしょ。みんなオリジナルで書いて、たまたま似たと思う?どっちかが参考にさせていただいてるんだよね」

さえこ「自分なりにアレンジ・・・」

谷藤 「仮にさ、これ類似してる、パクってるんじゃない?ってイチャモン付けられたってさ、著作権侵害を認められるってものすごく難しいんだよ。それに、訴えるのだってお金がかかるわけでなかなか訴える人なんていないわけよ。だから、自分なりにアレンジなんて全然安全」

 

さえこは、矢部がパクリ疑惑のタケダ桐子についてブログに書いていたのを思い出した。

桐子というのは、やはり谷藤が運営するサイトにコラムを書いている女で、矢部のコラムを丸パクリしていた。「占い xお金」というテーマの4部作のコラムである。

 

さえこ「そういえば桐子ちゃんの件も、矢部が一人で怒ってただけで、大問題になったわけじゃないですもんね。」

谷藤 「そういうこと。考えてごらんよ。人気のある記事使ってPV稼いで、そしたら、効率よく自分を売り込むことができるじゃない?そしたら、次のチャンスが来るかもよ」

さえこ「次のチャンス・・・」

谷藤 「そう。岡澤さんだって、もっと書きたいと思ってるんでしょ。うちだけじゃなくて。だったら、まずは注目されることが大事じゃない?そんな、くそ真面目に月に2本くらい書いてたって、誰も注目してくれないよ」

さえこ「そ、そうですね・・・」

谷藤 「でしょ。どぉ、もっと書いてみようって気になった?好きなネタ書いていいよ。」

さえこ「やってみようかな、私・・」

 

さえこは、谷藤の「自分を売り込む」「チャンス」という言葉に、冴えてるさえこに手が届きそうな気がした。

そして、どうせなら矢部を踏み台にしてやろうと思った。

 

(矢部のブログってコラム全部載せてるのよね。あれって、全部使っていいって言ってるってことじゃない?馬鹿よね)

 

もちろん、馬鹿なのはさえこだった。さえこは事もあろうに、桐子がやったのと同じコラムを使ってパクリ記事を書いたのだった。

どこまでも冴えないさえこだった。

 

冴えない人間の周りには冴えない人間が集まる。

さえこは自分の計画を「仲間」と思っている同業者の人間たちに話してみた。

「いいんじゃない、やってみなよ」

適当な返事だった。所詮他人事だったし、迷惑をこうむるのは矢部で、何か問題が起こったら困るのはさえこだった。余計な人間は消えていってくれた方がありがたいし、自分は痛くも痒くもないのだから。

 

さえこはやる気満々で記事を仕上げた。もちろん、「占い x お金」をテーマにした4部作である。

 

谷藤の思惑はもちろん全然別のところにある。

谷藤 「PV稼ぐには質より量なんだよ。原稿料そんなに出せないんだからさ、内容なんて何でもいいんだよ。適当にパクってさ・・・あ、いや、参考にしてさ。自分の宣伝になりますよ~って言えば書いてくれるFPがたくさんいて助かってるよ」

そんな会話を共同経営者としていた。

谷藤にとっては自分のサイトが目立つこと、そしてビジネスにつながること、広告収入が稼げることが大事だった。そのためには、彼の言うとおりクオリティではなく、PVだった。FPがたくさんいる・・・は、要するに要らなくなったら捨てればいいという意味であった。提携しているFPを大事に育てようとか、守ろうとか、そんな気はさらさらなかった。

 

 

 

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