傾聴への道⑥親子以上の親子

Toria

▶「①絶望の入り口」を読む
▶「②またも絶望、そして宿命」を読む
▶「③大きな選択が迫る」を読む
▶「④母の約束」を読む
▶「⑤母、そして家族」

母の病状も心配。
だが、家族間での確執がいつしか一番頭の痛い問題となった。

母がまだ元気だった頃に、“望んでいた事”をすこしでも叶えてあげたい。
でも、家族の者がすり減ってしまうような事ではならない。

家族の者ひとりひとりの思い、そして家族とは言え
”ひとりひとりの生活・人生”との兼ね合いのなかで
どうにも話し合いが出来なくなっていった。

わたしたち家族のそんな不協和音を案じて
病院関係者や地域の知人・友人が話し合いの輪の中に入ってくれる事があった。
しかし、家族関係はどんどん悪化していった。
 

わたしは自分が“傾聴”という仕事をしながらも
「自分がすべてを誰かに話す、出し切る」という事をしてきた事が無かった。

特に、わたしの母世代は「よそ様に家庭の恥を」と気にし
世間体を気にするところがあり
身内の恥と言うか、家庭で納めないとならない問題を外にさらすなんて事はあり得なかった。
 

わたしの人生の中で、知人・友人に家族の事や愚痴を話す事はそれまで皆無だったのが
「この時」ばかりは、その“たがが外れた”。 

母を守りたい。
家族の間を何とか、したい。 

その思いで、いろいろな方に話を聴いてもらい、相談をした。

病院の院長先生、臨床心理士、看護師。地域の精神保健衛生士、包括センターの方。
介護をサポートいただく予定のケアマネージャー。心療内科医。
地域の議員、そして、近所のご婦人の方々・・・。 

たくさんの方たちが、母の事、わたしたち家族の事を案じて、親身に話を聴いてくださり、力になってくれた。
まさに、それは「傾聴の輪」だった。 

それでも、何かが解決する事はなかった。

だが、わたしにとっては都度、状況を整理し、気持ちを落ち着ける事が出来
「自分がひとりではない」と思える事が心強かった。 

動いた分だけ、話し、語った分だけ
慰められ、癒され、元気をいただいた日々。 

今思い出しても、あっちこっちと走り回り、何かを誰かを求めて話を聴いてもらう。
一方、わたしは母の話を聴き続ける。
傾聴と対話の日々を繰り返した。 

夏から始まった母の傾聴。
気が付けば、季節は冬を目の前にしていた。 

転院や自宅での介護の話が持ち上がり始めていた。
母は、今いる病院から離れたくないようで、それを拒絶し気持ちが沈む事が多くなった。 

話して聴かせてくれる内容も、だんだんとシリアスになり
まさに、母のいちばん根っこにある悩みや苦しみが出て来た。 

「お母さん、わかってなくて、気づいてあげられなくてごめんね」 

心の底から、わたしが掛けた言葉に、母が応えた事… 

「気づいてもらえてよかった…

そう思えば、この病に感謝だね」 

辛く苦しいであろう、病や抱えて来た悩みの中で
母が漏らした「病に感謝」という言葉。 

そして、母が言った事。 

「とりあちゃん、一緒に、傍に居られたら幸せだと思う。
でもね、お母さんはとりあちゃんが
何処に居たって繋がっている。
とりあちゃんが幸せな事が、幸せになる事が
お母さんの幸せだから。 

親子と言ったって、全てわかりあえるわけじゃないんだよね。
お母さんは、とりあちゃんを同志だと思ってるよ。
それだけ、強く繋がっている。
だから、親子以上に親子なんだ」 

母のまた、我慢が詰まっている言葉に聴こえた。
でも、わたしは号泣しながら、その言葉を受け止めた。 

「とりあちゃん、もう十分だよ。
死んでから来てもらってもしょうがないし
これで、もう十分。
思い出作り出来たねー。楽しかったねー。」 

その言葉は、わたしをさらに泣かせた。

介護の事、家族の確執
どうにもならないまま
わたしは師走とともに、日本を離れる事にした。

「寂しくないように、思い出を作ろう」

母は言っていたけれど
やはり、母の元を離れるのは寂しかった。

だって、きっとこれが母との・・・
母と会える最後だと、わかっていたから。
そして、最後の最後までやはり母は強く
どんな母であっても
わたしは母に守られ、支えられ、今また
母の元を旅立とうとしている現実。
わたしは、不甲斐ない自分を嘆き、泣き続けた。
 


Celtic Woman「You Raise Me Up」(2005)

... ⑦「宿命を使命に変えて」を読む

TORIA (o ̄∇ ̄)/

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