▶ ①を読む
「やってられない!って思うよね。 こんな田舎」
アランの口から出た、その言葉
日本語に
わたしは腰が抜けそうになった。
「な・・・・な・・・」
何で!?と言いたいのに、言葉が出ない。
「びっくりしたでしょ」
そう言った彼の顔は、まだ薄笑いを浮かべている。
彼は、ここに来てから何日も
フランス語も英語も、何ひとつ言葉を発しているのを
わたしは見ていない。
それに、何もかもに無関心なように見えていた。
それが、今は目の前で
薄ら笑いを浮かべながら
また、次の言葉を発しようとしている。
だが、予想に反して彼は何を言う訳でもなく
鞄から、また”何か”を取りだした。
日本製の歯磨き粉、シャンプー、赤箱の石鹸。
日本の雑誌。それも何年か前のもの。
そして、また
ユーミンのCD
次から次と、鞄の中から出てくる”日本製品”。
最後に取り出したのは 小さな額縁。
わたしは未だ言葉が口から出ぬまま、目の前のアランという男に
そして、彼が並べた日本の品々に
恐怖しか感じられなかった。
アランは、私の戸惑う様子を楽しんでいる…。
やっと、わたしは言葉を押し出した。
「何で?」
その一言を言うのが精一杯で、それ以上は出てこない。
アランは、流暢とは言えないまでも
一言一言、しっかりとした日本語で話し始めた。
それは、真実なのか空想なのか、わからないような話。
まるで、聞いてくれる人を待っていたかのように。
「僕、日本語話せる。日本に居た。5年居た…」
アランは、つい数か月前まで日本・東北で暮らしていた。
日本ではフランス語を教えていたという。
その地で知り合ったのが、愛子。
アランのひと目ぼれだった。
愛子はフランス語も英語も全く出来ない。
けれど、彼は愛子が本当に好きになり、自分が一生懸命、日本語を勉強した。
出会いから8か月での結婚。
彼女の為に仕事を頑張り、彼女が望む事は何でも叶えてあげたいと思った。
とにかく、彼女を幸せにしたかった… 愛していた。
話が一区切りしたところで
アランは私に
「これが愛子だよ」と小さな額縁を差し出した。
そこに映っていた女性は、華奢で清楚で、31という年齢より若く見えた。
アランは、わたしが次に聞きたい事をわかっているように話を続けた。
アランと愛子の日本での生活は、穏やかで幸せだった。
幸せだと思っていた。
しかし、結婚から3年経ったある日、いきなり愛子が言った。
「別れてほしいの、私と。 今すぐ 離婚して」
そこまで、アランは一気に話すと
深いため息をついて
美しい思い出を、愛でるような目をした。
歯磨き粉を手に取り、片手でその歯磨き粉を撫でる仕草を繰り返す・・・。
その様が奇妙で、わたしはまた恐怖を感じた。
アランの話は、国際結婚の失敗談かと思った。
しかし、話の続きは
まるで「安っぽい昼ドラ」を見ているような
そんな、ちょっと信じ難い話だった… ③を読む
松任谷由実 - 7 TRUTHS 7 LIES~ヴァージンロードの彼方で
あの何もない町で、日本語を理解している外国人がいるとは…。
私が愚痴っていたすべてを聞かれていた事
それも、内容も理解していた事に気づいた時。
なおさら、恐さが襲ってきた…アランという男との出会いに。
次回はLastです。
TORIA (o ̄∇ ̄)/