僕は泳げない。
何度かスイミングスクールに通ったものの、
水への恐怖心は克服できなかった。
そもそも浮き方がわからないのだ。
「力を抜けば浮くよ」とコーチは言うが、
その通りにしても沈む。
たった水深1.4メートル。
なのに、僕にとってそこは深海。
違うのは、探査機も酸素ボンベもないことぐらいだ。
小学生の頃はビート板という助けがあったが、
中学校にはそんな便利なものはなかった。
「クロールで泳げ!」と先生に命じられても、
息継ぎができない僕はすぐにギブアップ。
結局、記録は最弱の5メートル止まりだった。
夏の体育は毎回プール。
みんなは「汗をかいた後のプールは最高だ!」と笑うが、
僕にとっては苦行そのもの。
例え自由時間であっても、プールの水は僕の天敵だった。
そんなある日、皮膚科で臀部のできものを診てもらったところ、
「プールに入るのは禁止」とお墨付きをもらう。
お尻の痛みには悩まされたものの、
これで堂々とプールを回避できる!
僕は密かにガッツポーズを決めた。
しかし、休みが続くと友人たちにこう聞かれる。
「泳げないからサボってるんだろ?」
バツが悪い僕は、苦笑いしながら
「ちょっと事情があってね」とごまかすしかなかった。
やることがない僕は、他の見学者とゴミ拾いをするか、
日陰で楽しそうなクラスメイトを眺めていた。
「プールごときで騒ぐなんて、子どもだな」と、
心の中で少し小馬鹿にしながら、
暑い午後をぼんやりと過ごしていた。
僕の「しんかい1.4」は結局、
何の役にも立たない探査機だった。
ただ、静かな日陰から夏の青空を見上げるだけの存在だったのだ。
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